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レコードストアデイジャパン 2016 アンバサダーアーティスト
サニーデイ・サービス 曽我部恵一 インタビュー。音楽が聴けること以外のプラス・アルファも大事にしたい。
— 『RECORD STORE DAY JAPAN 2016』のアンバサダーを務めていただいている曽我部 恵一さん。
曽我部さんがレコード・フェチであるということは、RECORD STORE DAY JAPAN 2016参加店で配布中のフリーペーパーに掲載しているインタビューでもお話しいただいていますが、ここではレコードへの愛をもう少し深く語っていただこうと思います。
まず、CDが出始めても全く魅力を感じず、レコードが取って代わられてしまうのではないかということに大変残念な想いをされたとか。
曽我部 30cmのLPサイズのジャケットも含めてアナログ・レコードが好きだったので、コンパクトで収納に便利だということでCDが普及することには抵抗がありました。全く魅力を感じませんでしたし。だから、大学に入って上京した後も、アナログ盤を求めて中古レコード店に毎日通ってましたね。
— 近年は、そのアナログ・レコードが見直され始めていますが、どのように感じていますか?
曽我部 当然でしょ?って感じなんですけど。
そろそろ当初から指摘されていたCDの劣化の問題が起きてくる頃だと言われていますから、アナログ盤のよさに気付く人はますます増えてくると思いますね。
僕自身、CDを作って販売しているんですけど、それは需要に応えてのものであって、そもそも個人的にはCDは好きじゃないんです。
世の中の様々な所でデータ化が進む始めの例だったと思いますし。
僕は音が出る前の、レコードに針を落とす作業に風情のようなものを感じていて、例えばレコードを買って家に帰る途中で、喫茶店に寄ってコーヒーを飲みながらジャケットを眺め、裏面に書かれている文章を読むなんていう一連の作業にも文化があると思うんです。
もちろんCDで育った世代には、CDなりの風情や文化があるのかも知れないけど、僕はレコードの世代だから、自分たちの文化への深い愛着があるんですよね。
風情や文化というようなものが本当に必要かと言ったら、取るに足りないものかも知れないんですが、例えば音楽のデータだけあれば良くてジャケットにはあまり意味がないというようなことになると、コーヒーは飲んだ時の作用だけあれば、味わいや香りはあまり大事じゃないといった味気ないことになると思うんです。
音楽が聴けること、コーヒーが飲めるということで目的は果たせるんだけど、それ以外のプラス・アルファも大事にしたいし、大事だという考えなんです。
僕は敢えて無駄と言われることを大事にしたい。
予定されていない、当然行き着くとは決まっていない物事の流れの中に
“文化”と呼べるものがあるんじゃないか
— 効率や利便性を考えればメールの方がよいかも知れないけれど、手書きの手紙にはそれとは別の意味や価値がありますよね。
曽我部 人間らしさってことなのかなぁ…。
簡単、便利、仕上がりがきれいといったことより、面倒で出来上がりの形が不揃いな方が人間らしいし、そっちの方がありがたみもあるって気がするんですよね。
文章が作られるのも、物が出来るのも、人が生きていくことも、計算されて無駄やリスクがない方がいいという考え方が善しとされてきたように思いますけど、それだと”物語”が感じられないんですよね。一つひとつは本当に大したことのない人々の営みかも知れないけど、その集積が”文化”なんじゃないかって気がします。
例えば買い物をする。インターネットでもできるけど、商店で買ったら店のおじさんが特別におまけしてくれるかも知れない。この予定されていない、当然行き着くとは決まっていない物事の流れの中に”文化”と呼べるものがあるんじゃないかと思うんですよね。
物を買うという点では、ネットで買っても個人商店で買っても結果は同じなんだけど、どちらに”物語”を感じるかという点で言うと、僕は商店の方が好きですね。
— 昭和46年生まれというと、少年期の環境の中にはまだ漫画や映画の『三丁目の夕日』に通じるものが残っていたと思うんですが、話を伺っているとそうしたものへの愛着を感じます。
曽我部 文化や文明の発達って、実際は失敗も沢山あって、とんでもない無駄を生んできていていますけど、無駄や無理をなくすことが目的としてあると思うんです。でも、さっきも言いましたけど、それだと味気なくなってしまうから、僕は敢えて無駄と言われることを大事にしたいですね。
— 時に音楽は、人間が生きる上で必要のない無駄なものに挙げられますね。
曽我部 まさに、そういうものの代表でしょう。でも、なかったら絶対に寂しい。
なくてもいいけど、なくなったら寂しくなるものって沢山あったし、今もあると思うんです。
僕は東京に出てきて神田みたいな昔の面影を留めたような街を歩きながら、こういう効率化が優先される以前の日本の風景や情緒っていいなぁって心から思ったんです。そういうものが描かれているから大正時代の日本文学なんかも好きですし。
なぜかって理由はよくわからないですけど、子供の頃から”古き良き日本”みたいなものを好む感覚がありましたね。世の中には、不便だし、洗練されていないし、カッコ悪いものも沢山あったけど、みんな今よりも人間らしかった気がして、そういう点に魅力を感じるのかも知れないです。
ファンの方たちと僕自身の感動や感覚は、より共有されやすくなっているとは思います。
イベントを通じて、レコードや音楽の魅力を知ったり、
改めて気付いたりする人が沢山いてくれたら。
— 確かに音楽のデータ化をはじめとして、人間の生活は便利で効率的になり、無駄がなくなってきているように見えますが、同時に無機的にもなっていますよね。
曽我部 洗練とか清潔とか高機能とかを求める時代の中で、例えば雑誌やテレビで見る人間の肌って見事にツルツルで、本来の人間から離れていってますよね。
— CDの盤面がツルツルなのに似ている気がしますけど、野菜は、形は揃っていなくても有機栽培の方がいいって見直されるようになりましたよね。均一ではなくても、きちんと価値が見出され評価されるという点は、中古レコード市場に通じませんか。
曽我部 それはありますね。古本屋さんもそうですけど、一度ゼロになってから改めて価値が決められるという一連の流れには魅力がありますよね。そこでは一律幾らの方が簡単でわかり易いという事情よりも、本当に好きか、どれくらいほしいのかといった、気持ちが優先されていると思うんです。
— ということは、ファンに本当に求められるもの、自分が心底作りたいと思うものを作って、自分が好きなアナログ盤でも作品をリリースできる現状は、曽我部さんにとって理想的と言えますね。
曽我部 望む環境が他になかったからここに落ち着いたということなので、理想的とまで言えるかどうかはわからないですけど、ファンの方たちと僕自身の感動や感覚は、より共有されやすくなっているとは思います。
— アナログ・レコードが注目されているのは、記録媒体として優れていること以外に、曽我部さんが言うように、人間らしさのようなものに気付いた人、魅力を覚えた人が少なくないということのように思えます。『RECORD STORE DAY JAPAN 2016』の成功を通じて、さらに人の心に訴えて、何年経っても色褪せない感動を与える、例えば『東京』のような作品を、これからも生み出していってください。
曽我部 ありがとうございます。イベントを通じて、レコードや音楽の魅力を知ったり、改めて気付いたりする人が沢山いてくれたらいいなと思います。音楽を好きな皆さんはぜひ参加してください。よろしくお願いします。
インタビュー・文:寧樂小夜 ( Sayo Nara )
曽我部恵一 プロフィール
曽我部恵一(そかべ けいいち)
1971年8月26日生まれ。香川県出身。
1994年サニーデイ・サービスのボーカリスト/ギタリストとしてデビュー。
2001年よりソロとしての活動をスタート。
2004年、メジャーレコード会社から独立し、東京・下北沢に<ローズ・レコーズ>を設立。
精力的なライブ活動と作品リリースを続け、執筆、CM・映画音楽制作、プロデュースワーク、DJなど、その表現範囲は実に多彩。
現在はソロのほか、2008年に再結成したサニーデイ・サービスでのLIVEやリリースを精力的におこなっている。
最新作は1月15日発売の、サニーデイ・サービスのNEWシングル『苺畑でつかまえて』。
http://www.sokabekeiichi.com/
■曽我部恵一氏のアンバサダー就任時コメント
レコードストアデイ/アンバサダーという大役を任されました曽我部です。
果たして自分が任務を全うできるかわかりませんが、レコード好きのはしくれとしましては、このレコードのお祭りみたいな1日を皆さんと一緒に楽しめたらと思います。
どうぞよろしくお願いします!
曽我部恵一
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