SPECIAL INTERVIEW 2023

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満島ひかり「RECORD STORE DAY JAPAN 2023」ミューズ就任記念インタビュー

アナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」。今年は自身でもレコードショップに足を運ぶという満島ひかりがミューズを務める。多忙を極める俳優業と平行して、MONDO GROSSO「ラビリンス」への参加や、ソロ名義の楽曲「群青」のリリースなど、不定期に音楽活動を展開してきた満島だが、彼女にとってアナログレコードはどのような存在なのだろうか? その答えを探るべく、満島の中に音楽の原風景や、レコードとの付き合い方について話を聞いた。

取材・文:三宅正一
写真:平間至
動画:仲原達彦
ヘアスタイリング / 新宮利彦
メイクアップ / MICHIRU
衣装協力 (帽子) / momiji
取材協力:Ella records (https://www.ella-records.com/)

──まずは「RECORD STORE DAY」という催しについて、どのような印象をお持ちですか?

2017年に、大沢伸一さんのプロジェクトであるMONDO GROSSOにボーカルで参加させてもらって、「ラビリンス」という曲を発表したんですけど、この曲はその年の「RECORD STORE DAY」でリリースすることを前提に作られた作品だったんです。まず、ボーカルが私であることを伏せてラジオでオンエアをして。「RECORD STORE DAY」でリリースした「ラビリンス」の12inchレコードにも私の名前はクレジットされていないし、ジャケット写真も写っているのが誰なのかわからないデザインになっていて。楽しい企画でした。舞台や映画の役で歌うことはありましたが、歌唱することからはずっと離れていたので、ある意味ではレコードをきっかけにまた音楽を始めたような感覚があるんです。

──なるほど。それは忘れがたいですよね。

はい。あと、もともと私はCDでも紙のジャケットのほうが好きで。今でも手元にあるCDはほとんど紙のジャケットです。手触りがいいんですよね。その感覚はレコードとも通じるところがあると思っています。それにレコード屋さんに行くと遊びの効いたデザインのジャケットだったり、意味のわからないジャケットだったりにたくさん出会えるのも面白い(笑)。

──ではレコード屋でジャケ買いをしたりもする?

紙ジャケットのCDもそうだし、レコードもジャケ買いします。家に帰って聴いてみたら「想像していたのと全然違う!」みたいなことはよくありますよね。むしろハズレだったかも、ということも(笑)。逆に周りの人たちも誰も知らない、すごく好みのレコードを見つけることもあったり。

──ストリーミングサービスでは聴けないような音源にもレコードでは出会えたりしますしね。

そうそう。以前、弟と一緒に1カ月くらいニューヨークに行ったことがありまして。そのときにレコード屋さんにふらっと入ったら、ずっと欲しかったレコードが置いてあって。レゲエおじさんみたいな店員さんに「え、これ欲しいです!」と伝えたら、「これは俺の私物だから売れない」と言われて、「本当に欲しいんです!」って食い下がってもダメでした(笑)。「値段が付けられないからダメだよ」って。いまだにそのレコードを探してるんですけど、なかなか見つからないんです。

──ちなみにそれは誰のどの作品なんですか?

ジュディ・シルの「JUDEE SILL」という2枚組のアルバムです。でも、そのレコード、峯田(和伸)さんがアンバサダーをされたときの「RECORD STORE DAY」のポスターに写ってたんですよ(※2020年開催時のポスター。撮影場所は東京・ココナッツディスク 池袋店)。あれは峯田さんの私物なのかな? いいなあと思って見てました(笑)。

──満島さんは普段からレコード屋にはよく行かれるんですか?

たまに行きますよ。Ella recordsは前に近所に住んでいたことがあって一度だけ来たことがあります。ここに必ず行くというレコード屋さんはないけど、散歩ついでにふらっと立ち寄ったりします。

──レコード自体は昔から馴染みがありますか?

好きです。ドラマでチェロを弾く機会があったときに神保町だったかな? クラシックのレコードしか置いていないレコード屋さんに聴きに行ったりも。

──そのドラマというのは「カルテット」?

はい。終盤でシューベルトの「死と乙女」を弾くシーンがあったんです。でもそれまで「死と乙女」を聴いたことがなかったから、神保町とかお茶の水あたりのレコード屋さんに行って「いい音でチェロが聴けるレコードを聴きたいです」なんてお願いして。お店を何度か訪ねては3、4時間レコードを聴かせてもらって帰る、みたいな(笑)。クラシックはもともと好きで普段も聴いていたんですけど、チェロをメインで聴いたことはなかったんです。「カルテット」の撮影を通してだんだんとチェロの音が聴き分けられるようになったら、ポップスを聴いてるときもベースの音が耳に入ってくるようになったんです!

──これまでと異なる位相で音が聴こえるようになったときの喜びって特別ですよね。

そうなんです。それからは「ベースがしっかり聞こえたほうが音楽を聴くのが楽しいかも」と感じるようになって。最初はどうしても、ボーカルや楽器の高い音が耳に入ってきやすいと思うんですけど、下の音が入ってくるようになったら音楽の世界がグン!と広がったんです。たまにちょっとトランスするような気分になったりするくらい(笑)。「あ、音が好きって言う人の感覚ってこういう感じなんだ!」と思って、それはとっても新鮮な発見でした。それまでは「なんでみんなクラブとか行くんだろう?」と思っていたから(笑)。

──最初にレコードに触れたときのことは覚えてますか?

いつが最初なんだろう......実家の父親のゾーンに古いレコードがいっぱいあったかな。小さい頃それを見てぼんやりと「これどうやって聴くんだろう?」と思っていた記憶があります。基本的に沖縄のおじさんたちは毎晩飲んでるので(笑)、お家に父の友人たちが遊びに来ると、懐かしい話に花を咲かせながらレコードを出して、みんなで語り始めたりしていて。

──ああ、すごく画が浮かぶ原風景ですねえ。

それもあってレコードは、父や母たちの若かりし頃の逸話が語られるときに登場するアイテムみたいな印象がありました(笑)。子供の頃はゲート通りという、沖縄市の嘉手納基地の通りが近くにあって。今はコザ・ミュージックタウンになっている、あの街で暮らしてたんです。もともとそこはアメリカの軍人さんたちが多い街でもあって、周りにたくさんのレコード屋がありました。地元に対して音楽の街だって認識もあったし、誰かのお店に入るとロックと沖縄民謡のレコードが共存しているみたいな感じでしたよ。

──今は自分でどれくらいレコードを所有してるんですか?

古いレコードをいっぱい持っていたんですけど、コロナ禍になったタイミングで一気に断舎離しました。なので、今はかなり少なくなっちゃいました。古いレコードの中には触っているとザワザワする念を感じてしまうようなものもあって。

──それは満島さん自身の思い入れも入ってるからでしょうね。

そうだと思います。最近、お気に入りのレコード入れをアメリカの木工デザイナーの方に作ってもらったんです。そこに入る分だけのレコードを持ち続けようかなと思ってます。

──今は一緒に生きていけるような感覚でいられるレコードだけを近くに置いておきたい、と。

そこまで重い気持ちはないけど、そうですね。そもそも同じアルバムを繰り返し聴くタイプでして。

──特定の音楽の中に深く入り込んでいく、みたいな感じですか?

そうなんです。映画も一緒で、同じ作品をずっと観ていたい。1年間に何本も観るより、1本の映画を繰り返して観ていたいという。そうするとその作品が自分の日常と絡みだしていくのがすごく面白いんです。

──作品が日常とシンクロしたり、共振していくということですか?

そうそう。共振するんです。例えばお料理する動きや音と、音楽や映画がセッションするようになったり(笑)。そのアルバムが好きで好きでしょうがないというわけでもないんですけど、ずっと聴いてると「あ、今日は違って聞こえる」ということが起こる。レコードは特に、湿度でも違うから。日々の景色の色が変わるように、音楽の聞こえ方も変わっていく。その現象がすごく好きなんです。

──その共振の度合いはデジタル音源よりもレコードのほうがきっと高いでしょうね。

そう思います。同じ作品を聴き続けていると、一部になりはじめることもあるくらい。全部混ざり合っちゃうんですよね。

──ここからは今日満島さんに持参していただいたレコードの中から2枚ほどご紹介いただけたら。

悩みますね……やっぱり1枚はこれかな。

──黒柳徹子さんの「チャック・オン・ステージ」。

はい。2016年にNHKのドラマで黒柳徹子さんを演じたことがあって。

──「トットてれび」ですね。

はい。私みたいなマニアックな人間が反応するもの、黒柳さんを演じるうえで心のエネルギーになるようなアイテムはないかなと思って調べたらこのレコードと出会って。このレコードには黒柳さんが1人でスタンダップコメディ的なトークショーをしている模様が収録されているんですね。黒柳さんがニューヨークに留学に行ったときにスタンダップコメディを観て「自分もあれをやりたい!」と思ったらしいんです。

──それをレコードに収録するのがいいですよね。

そうなんです。ドラマの撮影が終わるまで毎日1回は聴いてました。

──冒頭の「カルテット」の撮影時のエピソードもそうですが、満島さんは役と向き合ううえでレコードをはじめ、耳からインスピレーションを得ることが多いんですか?

確かに耳から情報を得ることは多いかもしれない。目から入ってくる情報や動きって無限すぎるなと思うところもあって。限定された世界から入ってくる深さがないと、プライベートな気持ちに届かない気がするというか。ごまかせない気持ちがレコードにあり、音にあるのかもしれないです。このレコードでは黒柳さんの息継ぎも聴けるので、「あ、これくらいの分数をしゃべり続けられるんだ」「こういうときは話のテンポが速くなって、こういうときに遅くなるんだ」と、かなり感じられました。黒柳さんになるための魔法の資料というのを除いても、最高のレコードです。ぜひご家庭に1枚どうぞ(笑)。

──では、もう1枚レコメンドをお願いします。

どれにしよう......初恋の嵐の「初恋に捧ぐ」にしようかな。このアルバムがアナログ化されたのは2015年なんですよね。歌詞カードを見ないでも歌えるくらいたくさん聴いてるので、レコードでも聴けるようになってうれしかったです。いつか「初恋に捧ぐ」をカバーしたいなんて思っていたんですけど、スピッツさんがカバーしましたよね。「草野(マサムネ)さんが歌うなら私の出る幕はない!」 と思って(笑)。とはいえ、ほかの曲も全部好きなので、いつか歌う時が来たらいいです。

──普段はどんなときにご自宅でレコードをかけるんですか?

朝も聴きますし、仕事から帰宅したときもよく聴いてます。今の時代は、周りにデジタルのものがあふれているから、アナログなものに積極的に触れたいのかもしれない。自分でレコードプレイヤーに針を落としてボーッとしながら音楽を聴いて、再生が終わってるのに気付かないで慌てて針を戻すとか、そういう時間に癒やされている気がします(笑)。

──レコードで音楽を聴く、その所作にも癒やされるというか。

そうなんです。そうだ、今年のお正月に俳優の後輩たちが家に遊びに来て「ヤバい! レコードあるじゃん! 聴いていい?」って勝手にレコードをかけ始めて、みんなで踊ったりしてました(笑)。一緒に遊びに来ていた5歳の子も踊り出したりして。

──それは先ほどのご実家の話に近いですよね(笑)。

確かに(笑)。子どもたちのレコードに対する反応は見ていて面白くて、完全にデジタルにあふれた時代なんだなと感じます。ものに触れて当たり前と思って生きてきた中で、今触れられないものが多くなってきて「触れたい!」という気持ちに私はなったりするけど、子どもたちは紙ジャケットのCDを触って、もちろんレコードにも触れて聴いて「え、紙で作ってるの?」とか、ビックリするような言葉を返してくるので(笑)。そういうのもすごく新鮮ですよね。

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001_ひかりとだいち love SOIL&“PIMP”SESSIONS – eden

ひかりとだいち love SOIL&“PIMP”SESSIONS

eden

レーベル
rhapsodies
フォーマット
12inch
販売価格(税抜)
2500円
品番
RPDS-00100

RECORD STORE DAY JAPAN オフィシャルサイト
https://recordstoreday.jp

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